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ハウジング・マルチエアコン

ケース2 / 多世帯(親×子×孫)が暮らす家

第1回 建築家インタビュー
「望む暮らし」が形になる。三世代全員を幸せにするリノベとは?

建築家:河辺 近氏(ken-ken有限会社 一級建築士設計事務所)

リノベーションとは、暮らし方を変えること。対話を通じて施主が望む暮らしを考えます。

注文住宅、リノベーションから街づくりまで、幅広い実績を持つ建築家、河辺氏。プロジェクトの大小にかかわらず、すべてに通じる建築家の役割は、「暮らしをつくること」だとおっしゃいます。

「住宅設備メーカーも、自社製品の機能については十分説明してくれるでしょう。ですが、施主の望む暮らしをまず考え、それに合わせた提案をすることは、建築家にしかできないこと。古くなった設備を新しく更新するのが『リフォーム』なら、『リノベーション』は暮らし方から変えることであり、まさに建築家の出番といえるのです」

まず必要なのは、施主の望む暮らしをとらえること。そのために「打ち合わせはまず雑談から入るんです」と河辺氏。日常生活にまつわるたわいない話を通じて、暮らしの中の問題点を見つけ、解決する方法を考えるのだそうです。

昔は比較的短期間で建て替えることが前提になっていた日本の住宅も、ここ20年くらいで耐久性が上がり、50年、60年もつのが当たり前に。「今後、リノベーションはもっと増えていく」と河辺氏は予測されています。

暮らし方を考えるには、空気も一緒に設計。エアコンを意識せず、ストレスなく過ごしてほしい。

河辺氏が設計を行う際、空調についてはどのようにお考えなのでしょうか?

「『暮らしをつくる』には空気について考えることが不可欠です。空間プランを作ってそこにエアコンを取り付けるというのではなく、最初から空気のことも含めて考えていきます」

とりわけ目指すのは、「暖かい/涼しい」ことより「寒くない/暑くない」ことだそう。「大切なのは、暮らしていてストレスがないことなのです。たとえば注文住宅の場合、私はよく床下に断熱材を入れて部屋と同じ環境を作るのですが、こうすると床が冷たくなりません。床に触れたときのヒヤッとした感覚がなければ、過剰に温かくなくてもストレスはないんですね。段差などがないという意味のバリアフリーもよいですが、空気のバリアフリー、つまり暑さ寒さのストレスがないことは、もっと大切なのではないでしょうか」

さらに河辺氏は、そのような環境を、住む人が意識しないように作ることが理想だといいます。

「どんなに空間をデザインしても、そこに機械がついているのはマイナス。電灯やエアコンのように『環境をつくる』機械は、できるだけ目に見えないのが理想です。予算があれば全館空調をおすすめすることも多いですね」

■暮らしをつくる 河辺氏の作品

・港南台の家 終の住処

人生の後半を心地よく暮らすための家づくり。通年でストレスフリーな建物の性能を求め、省エネルギーな建物として 計画されました。 経年変化を楽しめる素材でインテリアを創り、角地で高低差のあるこの土地の、周囲の環境にも配慮しています。

・横浜山手の家 空と緑のはざま

周辺環境・旗竿敷地の特性を考慮し、建築主が快適に生活ができるよう、明るく開放的な家となるように熟慮しました。 建物は1階・中2階・2階・ロフトとレベル差があり、その結果、2階LDKは通常よりも1m程高く位置し、近接する隣地からの視線を遮り、かつ採光も確保できました。

・世田谷瀬田の家 結んで開いて

楽しく明るい家を目指し、建て主と共に創り上げました。半地下に大きな書斎があり、中央の階段を通し、1階玄関ホール・中2階それぞれの個室・2階LDKと屋上まで家族のつながりを創っています。家族の楽しい笑い声が聞こえてきそうです。

設計事務所名
ken-ken有限会社 一級建築士設計事務所
設計者名
河辺 近
所在地
横浜市中区海岸通4-24 創造空間万国橋SOKO 301-B
TEL / FAX
045-222-8303 / 045-222-8603
URL
http://www.ken-ken-a.co.jp

二世帯住宅へのリノベーションは「奥様のため」。ともに暮らす全員が楽しくなれることを目指して。

今回河辺氏が手がける長田様邸のリノベーションは、ご主人のご両親の家を、長田様一家
(ご主人、奥様、3歳の息子さん)も暮らす二世帯住宅に改装するというものです。

初めて相談に来られた長田様ご夫妻の様子を見て、河辺氏が真っ先に口にしたのは「今回のリノベーションは奥様のためにするんですよ!」という言葉でした。

「二世帯とはいえ、義両親との同居となれば奥様には不安もあるはず。その奥様の気持ちに寄り添うことが、楽しい暮らしをつくるカギだと考えたのです」

同時に、2階の子ども世帯(長田様一家)の希望だけでなく、1階の親世帯(ご両親)への配慮も欠かしません。

「たとえば、1階のリビングの真上に2階のリビングが来ないよう位置をずらす。
そうすれば1階のご両親にとって音の問題はずいぶん軽減されます」

「こうして設計プランに自分たちへの配慮が含まれていることを知ればご両親もうれしいもの。『暮らしをつくる』とは、こうしてみんなが楽しく、『親×子×孫の多世帯』がいい関係で暮らせるようにすることでもあるのです」

勾配天井や廊下の一部にあるホールをどう活用する?2×4工法の家ならではのポイントは?

長田様邸は、2×4(ツーバイフォー)工法で建てられた家。壁で支える構造のため、部屋の区切りを大きくは変えられません。また、2階はスタイリッシュな勾配天井となっていますが、屋根裏がない分、断熱しにくいのも課題です。

反面「軸組構造と比べると密閉度が高く、空気のコントロールはしやすい」と河辺氏はおっしゃいます。

「個室の外にトップライトのあるホールがあるのですが、ここも子供たちが遊んだりするスペースとしてうまく使いたいと考えています。そのためには、ホールにもエアコンをつけたいですね。そうすれば全館空調ではなくても、家全体を快適な空間にすることができると思います」

さらに、課題となりそうな勾配天井の使い方にも、何やら秘策があるようです。

次回からは、施主である長田様ご一家のお話を聞きながら、どんなプランが作られていくのか、そのプロセスをレポートします。