インテリアスタイリストとして、数々のメディアでのスタイリングや企業とのコラボレーションで活躍している窪川勝哉さん。築64年のテラスハウスを購入してリノベーションし、アトリエとして使用しています。

インテリアのテーマは「建物が建てられた当時に実現できるコーディネート」。risoraオーナーでもある窪川さんに、空間づくりについてのお話と、誰でも実践できるインテリアスタイリングのヒントをお聞きしました。

建物と同年代のインテリアで揃えたレトロでモダンな空間

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▲もともとあった2階の1室を取り払い、吹き抜けに。訪れる友人たちもよく足を投げ出して座るという憩いの空間

インテリアスタイリストの窪川勝哉さんがアトリエとして使うテラスハウス。ル・コルビュジエのもとで学んだ建築家・前川國男氏が設計し、1957年に建てられました。同時代に設計された3箇所のテラスハウス群のうち現存する唯一の場所として、建築的価値も高いものです。

「スタイリストとして雑貨や家具のリサーチを行うことの延長で、不動産や車の情報サイトを見るのは趣味のひとつでした。この物件のことは以前から知っていましたが、あるとき偶然売りに出されているのを発見してすぐ購入に動きました」

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▲2戸が1棟に連なるテラスハウス。三角屋根も特徴的。奥は増築された部分

窪川さんはこのテラスハウスを、撮影や取材場所、また仕事仲間や友人たちと集える別宅としてリノベーションしました。2階の床の一部を抜いて吹き抜けにし、キッチンは入れ替えて対面式に。階段や天井の梁などは元の状態を活かしながら、レトロさとモダンさが融合する空間を作り上げました。

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▲別の物件の解体現場で出たものを譲り受けたキッチン。シンクのデザインは柳宗理によるもの

「不動産や車を購入するのは、自分の資産を“見える化”することだと思っています。このアトリエは、僕の一番得意なインテリアスタイリングが活かせて作品にもなるし、仕事場所としても使えるし、建物の価値を購入時より上げる自信もある。貯金よりもずっと有意義なお金の使い方だと思っています」

家具や小物を選ぶにあたって大事にしたのは、「建築当時に存在していたデザイン」であること。「当時の人が実現しようと思えば、同じインテリアをつくることも可能なはずです」と窪川さん。

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▲ミッドセンチュリー期の名作デザインが散りばめられたインテリア。梁や柱などは建築当時のまま

リビングには、サーフボードのような形が特徴的なイームズのエリプティカルテーブルを。ダイニングではアルネ・ヴォッダーのテーブル、曲げ木のチェア、ジョージ・ネルソンのバブルランプなど、1950年~60年代に生まれた家具が目を引きます。2階のベッドルームには、北欧デザインの巨匠、ハンス・J・ウェグナーがデザインしたベッドを置いています。

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▲ハンス・J・ウェグナーがデザインしたベッドフレーム。ヘッドボードは籐編みで、サイドに物が置けるシェルフがついている。写真左側にはドレッサー兼ライティングテーブルを置いている

2階にはもともと2部屋あり、畳敷きの和室だったそうですが、ベッドルームをコンパクトにして一部の床を抜き、吹き抜けに。いまは別の場所に自宅を構えているものの、ゆくゆくはこのアトリエに住むことがあるかもしれない点も意識して間取りを考えました。

「年齢を重ねたときに家の中で頻繁に上り下りする必要があるのは厳しくなると思い、2階はコンパクトにしました。クローゼットも1階リビングの一角に設けています」

浴室や庭などはまだ十分に手を入れておらず、これから整えていく予定。空間の将来性も見据えて、暮らしやすさも追求していくと言います。

古さを感じさせないモダンな要素を散りばめて

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▲リビングルームの床は鮮やかなコバルトブルーのカーペット敷き。モダンなデザインの家具や小物がアクセントに

アトリエのインテリアテーマは1950年代当時。時を経てもすたれない名作デザインを取り入れているとはいえ、古さを感じさせず、レトロ一辺倒になっていないのはさすがプロのセンスです。

インテリアのベースカラーは、柱や床、階段に合わせたダークブラウン。それに対して補色であるブルーをリビングの床に使い、空間にメリハリを加えています。

「古さを感じさせないポイントは、意図的にモダンな要素を入れていることです。リビングの床の鮮やかなブルーもそうですが、空間にシャープな線を描くように照明を選んだり、メタリックなモビールを使ったり。それぞれの部屋にモダンな要素を散りばめているので、現代的なインテリアにも感じられます」

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▲フランスのデザイナー、セルジュ・ムーユがデザインしたフロアランプが描く細い線は、空間をモダンな印象にする

モダンな要素のバランスや配色を計算して取り入れることで、まとまりはありつつも、さまざまな要素がミックスされて調和した空間になるそう。

家電製品にも造詣が深い窪川さんだけあって、アトリエにはバルミューダのクリーナーやダイソンの扇風機など、多くの最新家電も置かれています。それらがレトロな空間にあっても違和感がないのは、バランスの良さがなせる技なのです。

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▲ベッドルームを彩る、プリミティブな印象のアートとモダンな真鍮製のモビール

リビングの梁には、今後はプロジェクターから映像を投影できるスクリーンを設置する予定で、すでに電源や配線などは設けてあるそう。1950年代の梁と最新家電の組み合わせで、より暮らしやすく、楽しめる空間にアップデートしていくのでしょう。

窪川流インテリアの鉄則は「空間に丸いものをプラスする」こと

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▲「とても気に入っている家だけど、執着はありません。改良したり手放したりすることもあるだろうと、身軽に考えています」と窪川さん

窪川さんは、空間づくりは「そんなに難しいことはなく、とてもシンプルな鉄則がある」と言います。
それは、丸いものをひとつプラスすること。

「なぜなら、部屋には四角いものが多いから。壁と壁は直角に交わっていますし、ベッドもテーブルもTVボードも、インテリアには角ばった要素が多いですよね。だからこそ、意識して丸い物を投入すると、空間にリズムや表情が生まれるんです。
またソファは壁に沿わせて置くことが多いですが、一人掛けのイージーチェアは壁に関係なく角度をずらして配置できるアイテムなので、空間のアクセントになります」

曲線をプラスするだけで遊びや抜け感が生まれ、個性的な空間になるそう。

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▲ダイニングの主役はオーバル型のテーブル。曲線を描く曲木のチェアも、空間に動きを与えてくれる存在

ダイニングには、大きなオーバル型のテーブルを置いて、そこに人が集まれるようになっています。どこか温かくほっとできる空間になっているのも、テーブルやチェアが描く曲線が柔らかな印象を与えているからなのでしょう。

前編はここまで!
後編では、「インテリアを楽しむためには『壁』に注目するといい」と語る窪川さんに、効果的な壁の使い方や、気軽にインテリアを楽しむアイデアを教えてもらいます。

 

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窪川勝哉(くぼかわ かつや)
1974年山梨県生まれ。インテリアのみならず車や家電、ステーショナリーなどプロダクト全般に造詣が深いインテリアスタイリスト。TV番組のインテリアコーナーや雑誌のインテリアページなど、メディアでのスタイリングに加え、ウインドウディスプレイやイベントのデコレーションなども手掛ける。またメーカーとのコラボレーションによる家電プロデュースも行っている。
http://interiorstylist.jp/