夫婦ともに建築家で、多くの住宅設計を手がけている「ハンズデザイン一級建築士事務所」の星名さん夫妻。2013年にリノベーションしたご自宅(詳細はこちら)や、お客様の住宅では“ドアのない、ひと続きの空間”が実現しています。区切らない暮らしのメリットや、効果的な空調の仕方についてのポイントを教えます。
“トイレと浴室にしかドアがない”家
中古マンションを購入してリノベーションをおこなった、星名さんご夫妻の家。玄関を入ると正面にキッチンがあり、そこを中心として南側にはリビングダイニング、そして北側には、浴室や寝室などのプライベートスペースを配しています。
この家の特徴のひとつが、ほとんど区切りがなく、すべてのスペースがつながっている、という点です。
ドアを設けているのは、トイレと浴室のみ。それ以外はすべてひと続きの空間になっていて、キッチンカウンターを中心にぐるりと回遊できるようになっています。洗面スペースには、目隠しのためのカーテンを設置しているものの、普段はもっぱら開け放しているそう。
▲ 星名家の洗面スペースから、キッチン方向を望む。リビングダイニングの大きな窓も見える。
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カーテンを閉めれば、水まわりを目隠しすることができる。カーテンは取り付けたい場所のサイズをきちんと測り、ぴったりとあつらえるのがおすすめ。
「そもそも、個室などを設けて空間を区切るのは、『ライフスタイル上、必要だから』のはずです。勉強や仕事に集中するスペースが必要であるとか、音楽や映画を静かに楽しみたいから、といった理由があってはじめて、個室が必要だと判断されます。
ですから、お客様の住宅設計においても、ライフスタイルをヒアリングさせていただいて、とくにそういった要望がなければ、そもそもドアが必須ではないという場合も多いのです。
私たちの場合は夫婦2人暮らしなので、それぞれ思い思いの時間を過ごしたいときには自然と、リビングと寝室側の読書スペースとに分かれることが多くなっています。そうすると、それほどお互いの存在を感じることなく、ひとりの時間も確保できます」
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星名家の間取り。リビングと読書スペースでそれぞれが過ごせばお互いの存在が気にならないため、別途個室を設ける必要がなかったという
間取りというと、「○LDK」といった、部屋数で考えるのが一般的。しかしそれにとらわれず、住まう人のライフスタイルに合わせて設計すると、より自由にかつ使い勝手のいい住まいになるのです。
玄関の正面にお風呂があるユニークな案で、個性あふれる間取りに
▲ 夫婦+猫1匹で暮らすIさん宅。扇形に広がった玄関から見えるのは、浴室の窓。窓の外には東京スカイツリーも確認できる
星名さんご夫妻が、ハンズデザイン一級建築士事務所として手がけてきたというお客様の住まい事例でも、「各スペースをゆるやかに区切っただけの、ひと続きの空間」はたくさんあります。そのうちの2例をご紹介しましょう。
まずは、ご夫婦と猫1匹でお住まいのIさん宅。長く住まわれていたマンションの一室をリノベーションした事例で、最も大胆に変更したのは浴室でした。
もともとあった浴室は窓がなく、暗くて湿気が溜まりがちな場所で、そこを変えたいというのがIさん夫婦のご希望だったと言います。
「そこで、浴室を、2面が窓になっている角へと移動させ、もっとも気持ちのいい場所にすることにしました。
しかし、下の図面を見ていただければわかるとおり、そうすると『玄関の正面にお風呂がある』という間取りになります。」
▲玄関(下中央)を入った正面に浴室を配置。寝室も緩やかに区切られているだけの間取り。
「もちろん玄関から浴室が丸見えになっているわけではないですし、とても素敵な空間になると考えていましたが、ご提案するときは少しドキドキしました。
念のため、Bプランとして、無難な間取りも用意しておいたのですが、Iさんご夫婦が私たちの提案をおもしろいと思ってくださり、実現したのです」
浴室の窓からは東京スカイツリーを眺めることもでき、とても気持ちのいい場所になっています。
Iさんの希望により、ひとりで集中することができる小さなスペースも設けていますが、壁の上部は解放されているので、完全に区切られているわけではありません。
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キッチンカウンターの奥にある、白い壁で囲まれた小さなスペースは、Iさんがひとりの時間を確保するための“おこもり”スペース。
浴室を中心としながら、すべての空間がゆるやかにつながった、オリジナリティ溢れるお部屋になっています。
廊下をなくし、各スペースをつないで生まれた大空間
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夫婦2人暮らしのWさん宅。キッチンは、幅がコンパクトに収まる2列型を採用。キッチンの奥に続くのはサニタリー、さらにその奥は寝室と、抜け感のある間取り。
もうひとつの個性的なお部屋の事例は、新居の購入後、入居する前にリノベーションを計画されたWさんご夫妻のお住まいです。
もとの間取りは、廊下を挟んで左右に個室が振り分けられ、廊下の奥にLDKがあるという、スタンダードな3LDKでした。
新しい間取りでは、廊下がなく、家の中心部にある浴室の周りに、キッチンや寝室、クローゼットなど、それぞれの機能をもった空間がドーナツのように連続しています。
人も風も光も心地よく通り抜けることができるので、そのときいる部屋だけでなく、他の部屋が抜けて見えるのも、居心地の良さのポイントです。
「Wさんのようにご夫婦2人だけでお住まいなら、とくに、独立した個室で区切ってしまうのはもったいない場合が多い、と考えています」
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Wさん宅のリビングダイニングから、寝室方向をのぞむ。グレーの箱の中に、浴室やトイレ、洗面スペースなどの水まわりをまとめている。ぐるりと回った向こう側が寝室になっている。
Wさんの宅では、玄関を入ってすぐの場所に、大きなウォークインクローゼットが設けられています。
「設計前にヒアリングを行った際、ご夫婦ともにお洋服やバッグなどをたくさんお持ちで、『収納しきれるかどうか』を気にかけていらっしゃいました。
そこで、まず広いウォークインクローゼットを確保し、荷物のほとんどをここに収納できるようにしました。Wさんご夫婦は、お話を伺っていても、行動や考え方がとてもミニマムで、シンプルな暮らしをされている方だなと感じていました。
荷物の量は人によって全く異なるので、『どれくらいの収納があればすっきり暮らせるか』というボリューム感は、ヒアリングによって見当をつけています」
▲ キッチンカウンターは、タモ材や大谷石などの自然素材を使い、北欧テイストにも合う洗練されたイメージに。
キッチンと隣接したリビングダイニングのインテリアは、Wさんご夫妻がお好きな北欧家具や照明器具が主役です。
ご夫婦の憧れの照明だったという、ルイスポールセンのペンダントライト「アーティチョーク」を吊っても、十分にゆとりのある大空間が実現しています。
「エアコンも空間に合わせてご提案しています。北欧家具のシンプルで洗練されたイメージに合わせてrisoraの『ファブリックホワイト』を選びました。
シンプルでコンパクト、さりげない存在感なので、北欧テイストのインテリアやナチュラル素材を使ったキッチンなどとも違和感なくなじんでいると思います」
ドアのない家では、空調はどうする?
▲ 星名家のリビングダイニング。シンプルなインテリアのなかで、risoraの主張しすぎない存在感が気に入っている
仕切りのない、“大きなひと続きの空間”。
空間に奥行きとリズムをもたらし、気持ちよく光や風が通り抜ける住まいはとても心地よいものですが、不安や疑問も浮かんできます。
それは「空調はきちんと効くのか?」「においや湿気などが、部屋中に広がって不快感を感じないだろうか?」ということです。
星名さんご夫妻の自宅は、約72平米の広さで、LDKと寝室、サニタリーなどがすべてつながっている空間ですが、設置している空調機器はrisora1台。
実際に暮らしていて、空調としては十分機能しており、とても快適に過ごせていると言います。
「空調に関して言えば、機器だけでなく、そもそもの窓の位置や向いている方角がとても重要です。私たちが設計を担当するときには、そうしたことを考慮して、エアコンの取り付け位置や台数を提案しています」
たとえば、前述したお客様の事例では、Iさん宅の間取りの場合は、全体がL字型になっているので、1台では十分に冷暖房ができないと考えて、寝室の部分に2台目のエアコンを設置。
そしてWさん宅では、エアコンはrisora 1台のみです。星名さん夫妻曰く「サーキュレーターを使ったりしながら暮らしてみて、現在のところ1台で十分快適だとお感じになられている様子です」とのこと。
「空調に関しては個々人の感覚による部分も大きく、一概に広さと台数だけで決まるわけではありません。
私たちは、空気が連続している70平米程度の住まいでは、1台ないし2台のエアコンで住まい全体の快適な温熱環境をつくることができると考えています」
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ご夫婦揃って北欧家具好きな、Wさん宅の間取り。risoraはダイニングとキッチンの境目に設置されている。サーキュレーターなども使用しているという
においや湿気についても、一時的に気になることがあっても、風通しのいい家ならば、窓を1時間に10分ほど開けていれば、空気は入れ替わります。
「空調の選び方や配置の仕方、窓の取り方などによって温熱環境はコントロールができます。
それから、最近ではリモートワークの機会が多くなったことで、逆に“閉じられた空間”を必要とするライフスタイルが今後は増えていくかもしれません。
まずはそこで暮らす家族のライフスタイルをしっかり考えて、居心地の良い空間をつくることが大切だと考えています」と、お2人は語ってくれました。
家族の人数や年齢、家での過ごし方など、ライフスタイルをひとつひとつ大事に見ていけば、おのずと「あなたらしい理想の空間」の形も見えてくるかもしれません。
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